柳田国男「遠野物語」六三、六四番に初出。椀貸伝説や隠れ里伝説の類型が結びついたものと考えられている。
さてふと見れば立派なる黒き門の家あり。訝しけれど門の中に入りて見るに、大なる庭にて紅白の花一面に咲き鶏多く遊べり。その庭を裏の方へ廻れば、牛小屋ありて牛多くおり、馬舎ありて馬多くおれども、一向に人はおらず。ついに玄関より上がりたるに、その次の間には朱と黒との膳椀をあまた取り出したり。奥の座敷には火鉢ありて鉄瓶の湯のたぎれるを見たり。(中略)川上より赤き椀一つ流れてきたり。あまり美しければ拾い上げたれど、(中略)この家はこれより幸運に向い、ついに今の三浦家となれり。
遠野にては山中の不思議なる家をマヨイガという。マヨイガに行き当たりたる者は、必ずその家の内の什器家畜何にてもあれ持ち出でて来べきものなり。その人に授けんがためにかかる家をば見するなり。女が無慾にて何ものをも盗み来ざりしが故に、この椀自ら流れて来たりしなるべしといえり。
六三
家のありさま、牛馬鶏の多きこと、花の紅白に咲きたりしことなど、すべて前の話の通りなり。同じく玄関に入りしに、前腕を取り出したる室あり。座敷に鉄瓶の湯たぎりて、今まさに茶を煮んとするところのように見え、どこか便所などのあたりに人が立ちてあるようにも思われたり。
六四
柳田国男「遠野物語・山の人生」(ISBN:400331381X)
F&Cから発売されている18禁サウンドノベルゲーム「水月」に登場する、「どこにもない場所」。
以下、ネタバレにつき隠匿。
子供の時にだけ見ることが出来るが、大人になるとたどり着く事は出来なくなる。
そこには「山の民」が住んでおり、かつてアマテラスの子孫である現日本人と共存していたが、王政復古により、アマテラスの子孫よりも遺伝的に優れている山の民の存在は邪魔なものとなり、迫害・虐殺が行われ山の民はマヨイガへと追われた、という設定。
登場キャラクター「琴乃宮 雪」と深いかかわりがあるため、彼女に萌え尽きて果てた人たちを「マヨイガに逝ってしまった」と表現する事がある。他にも現実逃避することを指したりも。