ある想像上の町を舞台に、イスラム圏の片隅で内戦に翻弄される若い男女が出逢い、逞しく「西」を目指す物語だ。登場人物たちの独自性を強調するために、実在と虚構が入り交じるような、独特な世界観を構築している。 主人公は、黒いローブで身を覆いながら、バイクを操りマリファナを吸うという型破りな姿で読者の前に現れる。他にも、内戦の影響で社員解雇を余儀なくされて涙を流す事業主や、レモンの木を見て微笑む男など、彼らが持つ深い人間性を浮き彫りにしている。 物語は難民たちの顛末を、神秘的に描写している。彼らは「扉」の向こう側に平和を求めるが、その「扉」は現実の世界では定義しづらい。戦禍を逃れる人々の手の中にはスマー…