高井郡六川って里にある山の神の森で、栗を三粒拾ったもんで、庭の隅に埋めておいた。芽を出して、艶つやしい若葉も嬉しそうだったんだがね。 東隣が境界一杯まで、次つぎ建て増しするお宅でね、栗の幼木には陽も射さなけりゃ雨露の恩恵すらろくに届かねえ始末さ。つねに水不足なんだもの、ようやく一尺になるかならぬかで、年末を迎えちまった。 雪深いこのあたりの風習でね、冬ともなれば、各家の屋根から降ろした雪をね、往来だろうが余所のお宅の庭だろうが、低い土地へは我先に積んでゆくわけさ。わが家の庭にも東から西から、南から北から、ひたすら雪が落しこまれてねえ。しまいにはどこへ行くにも、屋根より高い雪山越しに出入りするみ…