上坪裕介『山の上の物語――庄野潤三の文学』(松柏社、2020) 少壮気鋭の研究者による、第一作家研究。庄野潤三作品における「場所」のへの視線、「場所」の扱われかたに着目して、人が安らかに生きるとはどういうことかを考察した労作だ。 上坪裕介さんは学生時代から、庄野潤三作品に注目。大学院進学後に研究を本格化し、里程標としてクサビを打つかのように、各論を雑誌発表してきた。やがてそれらが整序按配されて、学位請求論文となり、さらに一般読者にも理解容易となるよう工夫をほどこされて、本書となった。 上坪さんによれば、人の「本来的な在るべき姿とは、場所に溶けこむように場所と共生すること」であるにもかゝわらず、…