永井龍男(1904 - 90)『井伏鱒二対談集』(新潮文庫、1996)より無断切取り。撮影:田沼武能。 どれほどのユーモア精神があれば、かような対談ができるようになるのだろうか。溜息が出る。日暮れて途遠し。 永井龍男と井伏鱒二による回想録的対談となれば、噺はどうしたって文藝春秋と菊池寛とに及ばざるをえない。関東大震災の直後、「横光利一はどこにいる」と書いた旗を立てて、焼跡を探し歩いた菊池寛の姿を、井伏鱒二が伝えている。横光の人柄をことのほか尊重し、可愛がった菊池の面目躍如の逸話だ。 「文壇交遊録」(大正十四年)という短文は、多くの知友を一筆書きに列挙した、菊池寛ならではの痛快きわまる人物評集だ…