昨夜、満月の光が差し込む部屋で、俺は数日前の道南の旅で手に入れた「五稜乃蔵」の特別純米酒を静かに開けた。すっきりとした飲み口と柔らかな風味が、体にじんわりと染み渡る。 函館は観光地としては有名だが、長らく地酒がないと言われてきた場所でもあった。かつては幾つもの酒蔵があったが、1960年代を境にその姿を消してしまった。函館の街に本格的な酒蔵が蘇ったのは、実に54年ぶりのことだ。亀尾地区に新たに誕生した「五稜乃蔵」は、上川大雪酒造が手掛けた3番目の蔵元で、総杜氏の川端慎治氏が指揮をとる。酒造好適米「彗星」「吟風」「きたしずく」を使い、松倉川の超軟水で仕込まれた日本酒は、小仕込みでじっくりと丁寧に作…