ふと気になった。日本国の風景に自動販売機が溶け込んだのは、いったい何時頃からだろう? 楚人冠の紀行文を捲っていたら、 …チョコレートの自動販売機があるので、これへ十銭投(ほふ)りこんだが、器械が故障で、チョコレートは出ない。 こういう条(くだり)が見つかったのだ。 昭和十一年七月、盛岡駅待合室の描写であった。 (Wikipediaより、盛岡駅) 注目すべきは、自販機そのものを珍しがって記したのではない点だ。 それが故障中であり、せっかく投じた十銭硬貨が無為に帰したのであればこそ、楚人冠は筆を動かしたのだろう。金を入れれば商品を吐き出す、その種の機械は彼の認識下に於いて極ありふれたものであり、み…