お見かけしたことはあっても、ご縁があったとは申せぬ作家たちがある。 文藝春秋の雑誌で黒井千次さんが「学生たちに聞く」という企画があって、その「学生」の一人になったことがある。一九六九年か七〇年のことだ。黒井さんはまさに売出しの新進気鋭作家だった。仲間から誘われた私は、へェ黒井千次に会えるのかァくらいのまさしくミーハー的動機で出かけていった。TBS 社屋一階にあった「トップス」という喫茶店だった。 時あたかも学園紛争さなか。話題は当然その方向になるだろうと予想して、埴谷雄高の評論集を何冊か、付け焼刃で読んでから出かけた記憶がある。だがそういう噺にはならなかった。 お会いしたといっても、主役とエキ…