活字が生まれ、国語が定まり、著者(author)と著作物の関係が近代的な法での権利関係が定式化された、それ以前の社会や文化を考えてみることは、我ら現代人の盲点や限界を見極めることになるだろう。 日本では国学者たちが江戸期に文献批判的なことを開始したが、その前には文献の時代性や真偽性を殊更に検討素材にすることはなかっただろう。 だからこそ、過去の伝承や伝説は得手勝手に尾ひれをつけて広まり、無数の分岐や派生を生み出した。網野善彦らが指摘するように商業ギルドはその権利の保証を偽造文書に求めることが多かった。文物に明るい神官や僧侶たちは、もう少し真偽性を論証する能力にたけていた。それでも一部の寺社や宗…