――あのとき神風は吹いていたのだ。 そう叫ぶ者に出くわした。 むろん、現代(いま)を生きる誰かではない。古い古い紙の上で、だ。 昭和二年六月十五日発行、雑誌『太陽』増刊号で文学博士・村川堅固が力いっぱい吼えていたもの。 彼の主張するところ、その筋道をなぞってみると、なるほど確かに一定の理がなくもない。 あのとき――すなわち幕末維新。開闢以来、もっとも激しく日本列島が揺り動かされた十数年間。頼朝、あるいは清盛以来、七百年近く続いた武家政権の終焉と、一君万民思想に基く新体制への切り替えが、この短期間中に一挙に成し遂げられたのだ。そのあわただしさが言語に絶するのも当然だろう。 しかしながらちょっと視…