坪内逍遥(1859 - 1935) 文学には、音感やリズム感がことのほか大切だ。 学生時分の正宗白鳥は、早稲田から歌舞伎座まで徒歩で、芝居を観にかよったという。たしか広津和郎も、麻布の親元から早稲田まで、歩いて通学したと書いていた。昔の学生は、じつによく歩いたようだ。 芝居帰りの同級生たちで、逍遥先生を囲む茶話会があった。憎まれ口が身上の白鳥は、つい云ってしまった。 「演劇改良なんかせずとも、団十郎や菊五郎を観ていれば、それで好いと思います」 しまった、と思った。シェークスピアを講義し、日ごろから演劇改良運動を唱える逍遥を前にして、いくらなんでも口が滑ったかと。 ところが逍遥は「そりゃあそうだ…