中江兆民は奇行で知られた。 とある酒宴の席上で、酩酊のあまりにわかに下(・)をはだけさせ、睾丸の皮を引き伸ばし、酒を注いで「呑め呑め」と芸者に迫った件なぞは、あまりにも有名な逸話であろう。 その兆民の語録の中に、 「ミゼラブルといふ言葉の標本は、板垣の顔である」 という短評がある。 短いながらも、これほど板垣の本質を鋭く穿ったものはない。 (Wikipediaより、板垣退助) 板垣退助の絶頂期、一個人としての黄金時代は幕末維新の騒擾に、もっと言うなら戊辰戦争の砲煙にこそあったろう。彼の生命がもっとも溌溂とした期間であって、それゆえ一旦そこを過ぎてしまってからは、どういう立場、どういう仕事に就い…