「知るべのない所へ来まして、 いろいろな災厄にあっていましても、 京のほうからは見舞いを言い送ってくれる者もありませんから、 ただ大空の月日だけを 昔馴染《なじみ》のものと思ってながめているのですが、 今日船を私のために寄せてくだすってありがたく思います。 明石には私の隠栖《いんせい》に適した場所があるでしょうか」 入道は申し入れの受けられたことを非常によろこんで、 恐縮の意を表してきた。 ともかく夜が明けきらぬうちに 船へお乗りになるがよいということになって、 例の四、五人だけが源氏を護《まも》って乗船した。 入道の話のような清い涼しい風が吹いて来て、 船は飛ぶように明石へ着いた。 それはほ…