蒲田温泉の黒湯に浸かり、身も心もブラックに染まった。湯上りの街の空気は妙に浮遊感があった。駅へ向かうつもりが気づけば逆方向へ。道を間違えた自分に怒りを覚えるが、ただ引き返すのは味気ない。何か食べよう。そう思ったのは腹が空いていたからか、ただ理由が欲しかったからか。 土曜の夜なのに歩く人々は皆、疲れた顔をしている。誰もがどこかへ向かっているようで、ただ時間を潰しているだけにも見える。何を抱えているのか、何を諦めているのか。早く新宿へ戻り、執筆が山積みなのに、それを考えるのも嫌だった。夜の蒲田は寂しさを纏っていた。 すき家の隣に現れたのは、「威風」と書かれた赤い看板のラーメン屋。どうやらチェーン店…