山椒が黄色い花を咲かせていた。見つけたときには山椒だよなぁ……と思ったものの、自信がなかったから、葉の先を指に挟んで擦り、その指先の匂いを嗅いでみたのだった。すると山椒の強い香りが鼻を付いたから、ちょっと嬉しくなったのだ。一年前の五月のことだった。場所は箱根町のポーラ美術館で、リヒターの絵をみたあとに大きな樹木のある散策コースを歩いた。雨上がりの森を歩いている人は少なく、新緑の高い梢の隙間には、いま雲が切れて見え始めた青空があり、高い空を飛行機が横切った。 一年が経つのが早い。もうすぐあの素敵な五月がやって来る。片岡義男の角川文庫「夕陽に赤い帆」に収録されていた「バドワイザーの8オンス缶」とい…