巖頭之感 悠々たる哉天壤、遼々たる哉古今、五尺の小軀を以て 此大をはからむとす。ホレーショの哲學竟に何等の オーソリチィーを價するものぞ。萬有の 眞相は唯だ一言にして悉す、曰く、「不可解」。 我この恨を懷いて煩悶、終に死を決するに至る。 既に巖頭に立つに及んで、胸中何等の 不安あるなし。始めて知る、大なる悲觀は 大なる樂觀に一致するを。1903(明治36)年だから、今から121年前。その前年に、第一高等学校(旧制高校、現在の東京大学教養学部と千葉大学医学部、同薬学部の前身)に入学し、順調にエリートコースを進んでいた男、藤村操が、日光華厳の滝から投身自殺を図った時、傍らの水楢の樹肌に遺書を記した…