宇治殿と呼ばれた藤原頼通が権勢を誇っていたころの話。 この時、まだ明尊僧正は、僧正ではなく一階級下の尼僧の管理官(僧都)だった。 三井寺の一番偉いお坊さんになる明尊僧正が、宿直でお祈りをしていた。 灯火を灯していないが、もう暗い。 急遽この僧正が夜のうちに三井寺に行って帰ってくる必要ができた。 理由は今となってはわからないが、この話をする上ではどうでもいい。 頼通は、馬小屋にいる落ち着きがある馬に鞍を置いて連れてきた。 居並ぶ侍たちに向かい 頼通「誰か、ついてくる者はいないか」 左衛門尉平致経「この致経が参ります」 頼通「いとよし」 頼通「この僧都は今夜三井寺に行って、そのまますぐに夜のうちに…