それは「もはや戦後ではない」と言われて20年が過ぎ、高度経済成長をへて安定成長期に移ったころ。ここは福島県阿武隈山系中部の村。散りばめられた小さな里山の合間に田畑を耕しぽつんぽつんと人家が建つ。夜になると辺りはすっかり闇に包まれ、空は満天の星。その輝きは街灯の少なさを補うようだ。カエルの声がこだまし、梟が鳴き、時には晩鳥(ムササビ)が飛ぶ。そこで闇夜の静けさをかき消すような男たちの声。3人のおんつぁま(おじさん)達が山菜料理と酒を囲んでいた。 「今日の代かぎはくたびっちゃ(くたびれた)。あさげ(朝)からばんげ(夜)まで、もーうこわくて(もう疲れて)くたくただ。・・・それにしてもこのワラビうめぇ…