【高師直弁内侍ヲ奪ヒ取ル事】 弁の内侍、御かたちいとめでたくさぶらひしを、むさしの守高階の師直、いかなりけん折にか見そめけむ、こころにかけておもひけるに、みかどかくれさせ給ひて後、ひそかに御ふみ奉りて、「しのび出でさせたまへ。御迎を参らせてん」と度々いひこしけれど、御返しもしたまはざりければ、ねたくおもひて、行氏卿へかよひける女のありけるをもとめいでて、北のかたに「かかる事なむ侍る。ともにはからはせ給ひて、本意とげなんには、しらさせ給はむ所をもあまたつけ侍りなむ。三位どのの官位をもすすめて」などいひおこすれば、さらぬだに世の中の人のおそれぬはなきに、いとたのもしくきこえければ、御ふみをととのへ…