🌸徒桜 written by のる🌸 中川辺を通って行くと、 小さいながら庭木の繁りようなどのおもしろく見える家で、 よい音のする琴を和琴《わごん》に合わせて派手に弾く音がした。 源氏はちょっと心が惹かれて、 往来にも近い建物のことであるから、 なおよく聞こうと、 少しからだを車から出してながめて見ると、 その家の大木の桂カツラの葉のにおいが風に送られて来て、 加茂の祭りのころが思われた。 なんとなく好奇心の惹かれる家であると思って、 考えてみると、 それはただ一度だけ来たことのある女の家であった。 長く省みなかった自分が訪ねて行っても、 もう忘れているかもしれないがなどと思いながらも、 通り…