💠巡る思い出 written by 蒲鉾さちこ💠 目的にして行った家は、 何事も想像していたとおりで、 人少なで、寂しくて、身にしむ思いのする家だった。 最初に女御の居間のほうへ訪ねて行って、 話しているうちに夜がふけた。 二十日月が上って、 大きい木の多い庭がいっそう暗い蔭《かげ》がちになって、 軒に近い橘《たちばな》の木がなつかしい香を送る。 女御はもうよい年配になっているのであるが、 柔らかい気分の受け取れる上品な人であった。 すぐれて時めくようなことはなかったが、 愛すべき人として院が見ておいでになったと、 源氏はまた昔の宮廷を思い出して、 それから次々に昔恋しいいろいろなことを思って…