どじょう料理の老舗たる、東京浅草駒形屋。そこの御亭主、渡辺助七、あるとき奇特なことをした。 学芸振興の名目で、一万円をぽんと投げだしたのである。 投げ込み先は東京商大、やがて一橋へと至る、旧制官立大学である。時あたかも大正十四年が晩秋、霜月の頭ごろだった。 (Wikipediaより、東京商科大学) 筆者(わたし)の記憶が確かなら、日清戦争開幕時、福澤諭吉先生が軍資義捐金として財布から引っ張り出したのも、やはり一万円のはず。 俺がこれだけ出したんだから、てめえらもケチケチすんじゃねえとの、世の富豪らへの「呼び水」的なカネだった。 三十年弱を経て、円の価値もだいぶ変動しているが、それでもかなりの大…