第一章:封じられた山 大学の夏休み、私は民俗学を専攻する友人・佐伯とともに、ある山奥の村を訪れた。古地図にだけ記された「阿志岐神社」という廃神社を調査するのが目的だった。 山道は険しく、登るにつれて人工物の痕跡が消えていった。夕暮れが近づいた頃、朽ちた鳥居と、石段の先に崩れかけた社が姿を現した。 その場に立った瞬間、私たちは奇妙な“沈黙”に包まれた。風も、虫の声も、何一つ聞こえない。まるで音そのものが封じられているかのようだった。 社の奥には、小さな祠があった。注連縄は朽ち、紙垂(しで)は黒ずんでいたが、中央に据えられた箱だけは妙に新しく見えた。 その箱に近づいた時、不意に背後から鈴の音が聞こ…