その階段を上った。木がかすかに軋んだ音が、森の奥へ吸い込まれていく。 遊歩道は木製で、ところどころ古びていた。踏むたびに沈む感覚があったけれど、足は止まらなかった。 森の中は、外よりも静かだった。風の音もなく、鳥だけが、時々短く鳴いた。 道のりは、およそ一キロ。けれど、距離の感覚は曖昧だった。どれだけ進んだのか、どこにいるのか、よくわからなかった。 自然の大きさに包まれていると、自分がとても小さく感じた。それが、なぜか心地よかった。 やがて、森が開けた。 出口だった。 そこから獣道を抜ければ住宅街へ出る。知っている景色のはずなのに、初めて見るような、どこか遠い場所のようだった。 なぜだろう。達…