人気時代劇「必殺シリーズ」第7弾。前作『必殺仕置屋稼業』からの直結した続編として描かれた。
1976年(昭和51年)1月16日より7月28日まで全28話にわたって放送された。
『必殺仕置屋稼業』の最終回において、中村主水は捕縛され護送中だった市松を逃がすべく、往来においてわざとヘマを犯し、結果的に市松の逃亡は成功したのだが、その責任を負い、牢屋見廻りに格下げとなった……という舞台設定から始まる。
今作で新たに中村敦夫、大出俊が新たに出演。中村敦夫は元々必殺シリーズのライバルであった『木枯し紋次郎』に出演していたのだが、『おしどり右京捕物車』で松竹京都映画作品に出演。前作『必殺仕置屋稼業』において「疾風の竜」というゲスト殺し屋として登場したことを経て、レギュラーとなった。
放映当時はオイルショック、エネルギー危機などの深刻な経済情勢が背景にあったせいか、『必殺仕置屋稼業』が、どこか明るい世界観であったのに対し、誰もが切羽詰った状態であり、心に隙間風が吹くような、そんな荒涼とした雰囲気が伝わるような作風に仕上がっている。
主要キャラクター像の性格付けも世界観に準じており、例えば中村主水はこの作品から酒を飲み始め(正確にはスポンサーであった酒造メーカーに配慮してのこと)、せんとりつは傘張りの内職、更には中村家が増築した「離れ」を使って間借り人からの家賃回収と、日々の生活においても荒んだ雰囲気を醸し出している。
仲間同士の掛け合いにおいても例外ではなく、『必殺仕置屋稼業』のメンバーが、じょじょに絆を深め合っていったのに対し、今作で中村主水と新たに仕事をする仲間である赤井剣之介、やいとや又右衛門、お歌らとの関係においてはあくまでビジネスライクであり、自己保身のためなら仲間であっても手をかける、という金だけが絆のチームになっている。
前作『必殺仕置屋稼業』の世界観から切り離すため、第1話を演出した工藤栄一は、安倍徹郎の脚本を絶妙な形で改訂。脚本には存在しないセリフである「俺は誰も信用しちゃいねえ。俺たちゃ人様の命奪って銭稼いでいる悪党だ。だから仲間が欲しいんじゃねえか。地獄の道連れがよ。その道連れを裏切ってみろ……地獄へも行けやしねえじゃねえか」を加え、中村主水の口からその言葉を言わせることによって、荒んだ世界観と、ドライな裏稼業の始まりを決定付けた。
新たに作られた劇判も手伝った序盤におけるハードで陰惨な作風は、初期シリーズを思わせるほど過激な内容に仕上がっているが、後半になるとその勢いもじょじょに落ち着いてくる。とは言え、荒涼とした雰囲気は維持されており、最終回における赤井剣之介夫婦の壮絶な死に様は中村主水の心に深い傷を残し、後々の作品においても、その死に様と殺し屋としての業を重ね合わせた心境を吐露しているほどだ。
尚、この作品の第24話「あんたこの替玉をどう思う」が、必殺200回記念作品であり、石坂浩二や野川由美子、中村玉緒など歴代必殺出演俳優がゲストで勢ぞろいした。また、第27話「あんたこの逆恨をどう思う」は、大出俊扮するやいとや又右衛門が「手」のみの出演になっているが、これは大出俊が降板した後に話数調整のために撮影された作品である。
この作品のタイトルである『必殺仕業人』は視聴者より公募し命名された。
個性的なキャラクター達が織り成すハードで濃密なストーリーにファンは多く、必殺シリーズ全体においても非常に評価の高い作品となっている。
あんた この世をどう思う
どおってことねえか
あんた それでも生きてんの
この世の川を見てごらんな
石が流れて木の葉が沈む
いけねぇなあ 面白いかい
あんた 死んだふりはよそうぜ
やっぱり木の葉はヒラヒラ流れて欲しいんだよ
石ころはジョボンと沈んでもらいてぇんだよ
おい あんた聞いてんの 聞いてんのかよ……
あら もう死んでやがら
あー……菜っ葉ばかり食ってやがったからなあ
(作:早坂暁/語り:宇崎竜童)
市松、印玄と別れ、中村主水(藤田まこと)が牢屋見廻り同心となってから一年の時が過ぎていた。
主水はそれでも金のため殺し屋稼業を止められず、灸を表稼業とするキザな又右衛門(大出俊)と、江戸に残り風呂焚きから女郎衣装の洗濯屋に転職した捨三(渡辺篤史)とチームを組んでいた。
牢内で仕置きとなった罪人の死体を見届けた雪振る帰り道、主水は奇妙な男に出会う。大柄で顔は白塗り。女連れ。その男は「中村主水という男を知らないか」と尋ねるのだが、警戒した主水は惚ける。すると、突然信じられないようなことを言い出した。「おい……金貸せ」。驚きを隠せない主水であったが、男が突然刀を抜いたため身動きが取れない。それでも刀をよく見ると、何と竹光であった。名前を名乗らず立ち去ろうとする男に対し、主水は刀を抜いて威嚇。すると、傍にいた女が主水に向かってこう言った。「赤井剣之介……」その言葉が言い終わるか終わらないうちに、女は頬を叩かれ、二人は去っていった。
主水はある大仕事を控えていた。牢内にいる老人・伝蔵(汐路章)から持ちかけられた沼木藩主の奥方殺しである。頼み人は豊島屋久助(下元年世)。上州沼木藩上屋敷に奉公していた妹・おしんがご成敗に遭い、沼木藩邸の前で奥方を中傷したことがきっかけで牢送りにされ、罰を受けたのだ。奥方の名はお未央の方(安田道代)。主水はこの女を「魔性の女」と称したが、病的なほど独占欲が強く、足利郷里に住む、京の西陣で修行した源兵衛(寺下貞信)から打掛を献上されるのだが、あまりの美しさに「二度とこのような美しい打掛を作ってはならぬ」と源兵衛の片腕を切り落としてしまうほどだ。
一方、主水と衝撃的な出会いをした赤井剣之介(中村敦夫)とお歌(中尾ミエ)の二人であったが、芸人という、当時人間とは思われないような蔑まれた職業の上に、大した芸も出来ず観客と揉めることもしばしば。そんな中、剣之介とお歌は立派な格好の侍に連行されてしまう。侍の一人である小沢勘兵衛(天野新士)は剣之介のことを「森之助」と呼ぶのだった。
そんな、食うや食わずの生活をしているため、江戸のスラム街で雨露を凌がなければならず、着るものにしてもお歌が古着屋で万引きをしなければならないのだが、ある日運悪く見つかってしまう。偶然通りがかった主水がお歌を取り押さえたのだが、出会いの時から二人が気になっていた主水は、お歌から剣之介の居場所を聞き出した。お互いの素性が分かって初めて顔を合わせる二人。剣之介は、主水の「なぜ自分の名前を知っていたのか」との問いに、「市松(沖雅也)という男から聞いた」と答えた。驚きを隠せない主水。市松とは信州諏訪で出会い、土地のゴロツキである”赤蔵”という男を殺し金を奪った間柄で、それ以上の関係はなかったのだが、市松から江戸にいる主水の名前を聞き、仕事を紹介してもらうよう主水を探していたのだ。市松からの紹介では惚けることもできず、主水の「何の仕事がしたいんだ?」の問いに「殺しだ。今の俺にはそれしか出来そうもない」と答える剣之介。そして、主水から一両を借りるのであった。
主水は剣之介に標的であるお未央の方の顔を見せる。ところが、剣之介は女は斬れぬと言い出した。剣之介は元・沼木藩の上級藩士で名前を「真野森之助」と言い、お未央の方は許婚だった女なのだ。しかし、偶然出逢ったお歌と好き合い脱藩。人を一人殺したため、お尋ね者となってしまったのだ。その後、お未央の方は藩主に見初められ奥方となった……主水とそんな話をしている最中、お歌が沼木藩に拉致されたことを知る剣之介。主水はアジトに仲間を招集し、金を分配する。そして、剣之介自らお未央の方を殺すことを宣言するのであった。
お未央の方は剣之介を今でも愛していたが、剣之介自身がお未央の方を始末して過去から決別。お歌を救出した主水たちであったが、後日アジトに集まる。又右衛門は剣之介に対し、腕も立つし仕事も出来ると前置きをしながらも、お尋ね者が仲間に加わることによって捕縛されてしまう可能性があることを懸念。更には剣之介を呼び出し、場合によっては消そうとまで考えていた。業を煮やした又右衛門が、主水に向けて口にした「俺はあんたを信用できねえ。だから一緒に仕事はできねえ!」との言葉に対し、主水もこう口にした。
「やいとや、俺だっておめえなんかはなから信じちゃいねえや。おめえだけじゃねえぞ。あの捨三も、あのノッポも、俺は誰も信じちゃいねえ。俺たちおめえ、人様の命頂戴した金稼いでいる悪党だ。だから仲間が欲しいんじゃねえか。地獄の道連れがよ。その道連れを裏切ってみろ。地獄へも行けやしねえぞ……」
こうして荒んだ心に加え、金だけがチームとして繋ぎ合せる乾いた裏稼業がスタートした。
続編に『新必殺仕置人』がある。
*1:第1話では「出戻り銀次郎」