【平家物語59 第3巻 少将都帰り①】 宰相の領国鹿瀬庄で、暫く休養していた成経は、 ようやく体力も元通りになり、 そろそろ気候もよくなってくるので、 都に帰る事を思い立った。 治承三年正月下旬、肥前鹿瀬庄を海路出発した。 早春とはいえ、まだ海は荒れ模様で、 島伝い浦伝いの航路を続けて、備前の児島に着いたのが、 二月の十日頃であった。 父成親ゆかりの場所、有木の別所は、ここから程近い。 今は遺跡となった住家を訪ねてみると、障子や唐紙には、 成親がつれづれのままに書き記したあとが残っていた。 安元三年七月二十日出家、 同二十六日、信俊《のぶとし》下向とあるところで、 少将は始めて源左衛門尉信俊が…