「貴方様が、西八条にお召し捕られてあと、 それは恐ろしゅうございました。 直ぐに追手の役人共が参り、 ご家来の方々はほとんど捕われ、 いろいろに責めさいなまれ、訊問《じんもん》され、 最後には一人残らず皆殺しでした。 奥方様は、 若君様とこっそり鞍馬の山奥に忍んで居られましたが、 お訪ねする者もなく、私が時折、 様子を伺いに参上いたしますと、 いつでも、お話は鬼界ヶ島の貴方様のことばかりで、 とりわけ若君様には、有王よ、鬼界ヶ島に連れて行け、 連れて行け、とおせがみになり、 その度に奥方様と私、 どうやっておなだめしてよいやら、 途方に暮れるのでございましたが、 去る二月、 疱瘡《ほうそう》が…