MEMO ボロボロで、プランターと不用品に囲まれ、落書きまでされている。しかし我々は、この 哀しき晩年を迎えた老体に宿る、美しい魂を見逃してはならない。みればみるほど端正、モダンにして実直なる木賃アパートである。 シンメトリーのファサード、2住戸分を1ユニットとして構成した窓台と瀟洒な仕切格子が目を惹く。方杖で支えられた階段は幅が広く、腰板には波板を嵌め、ササラのC型鋼の端部処理も丁寧である。 住戸スパンは2間、狭小で廉価な賃貸アパートであっても、己の持分で良質な仕事に励む職人が数多いたことは日本社会の誇りである。(ただし発注者側が「職人の心意気」といった美辞麗句に甘え、低賃金や長時間労働を肯…