ドストエフスキーのシベリア流刑をもとにした長編小説。
死刑宣告―流刑後のドストの覚醒を、地下室の手記が思想的に物語るとするなら、こちらは体験的に物語っていると言えよう。(―死刑体験は白痴で述べられている)
読み終えるまでにかなりの日数を費やしてしまった。 ドストエフスキー自身がシベリア送りにされた時の日記のようなテイストであるため、一つの軸になる物語がない(不自由、希望といったテーマはあるが)ため、没入感が無く読んでいて面白いといった感覚は少なかった。しかしながら、この獄中での体験がのちの作品の登場人物の深みを出していることは間違いない。 貴族の出のゴリャンチコフ(主人公)が獄中に感じた孤独についての記述が多かったが、観察対象とされた他の囚人からしたらてんで的外れな見解も多いのではないかと思われる。貴族出の主人公は体刑が免除されたために、体刑の痛みを知ろうと他の囚人に形容してもらおうと聞いている…
囚人の生活とか刑務所内の環境とかは、一般人にはなかなか触れる機会がない。時折、囚人に対する虐待や暴行、さらには、それによる囚人の死亡などのニュースを耳にすることがある。その度に、刑務所という場所に対して負のイメージを持ってしまう。ニュースを聞いた瞬間は、刑務所内では虐め・暴力・虐待などが日常的に行われている劣悪な環境なのだろうなぁ、堅気の人間には耐えられないだろうなぁ、酷い所だなぁと思ってしまう。 しかし、よく考えてみると、刑務所内で囚人に対する非人道的な事件が起こる確率は、ごくごく珍しいことだと分かる。というのは、珍しいからこそ事件としてニュースで扱われるのであり、非人道的行為が自明のものと…