嘉応《かおう》元年七月十六日、後白河院が出家された。といっても、今まで通り、政務は、続けられていたから、別に変りはなかった。益々わがまま一方になる平家のやり口については、心の内で、何かとご不満を感じていられた様子だったが、それを公けにされたわけでもなく、 平家の方でも当らず、さわらずといった態度で、 表面は、何事もない平和な日が過ぎていった。 が、事件は、思いがけないところから、口火を発することになった。 重盛の次男で、新三位《しんさんみの》中将 資盛《すけもり》は、 まだ十三の腕白坊主だが、年は若くても、 良い星の下に生れたおかげで、身分は高く、 したい放題の事をしても、誰もとがめるものがい…