◯ 靖 昭和十四年五月三十日 幟は門の両側に初夏の緑風にあほられて時々バタバタと翻っている。三本、四本、門柱の左右の高張提灯には「祝入団曽我靖君」と記してある。若竹町四丁目からの寄贈だ。交叉した日章旗と旭日旗も又同町からの寄贈による物。 今日は海軍志願兵として呉海兵団に入団の為、名古屋を出発する日だ。親の心子知らずで時間一杯、あれこれと靖は外出していて未だ帰って来ていない。 国防婦人会、在郷軍人高見分会、千種旅館下宿業組合等の会旗又は町旗も門前両側に立てられている。 午後三時頃から三人、五人、羽織袴、モーニング服の祝辞の客、見送りの人々が続き、玄関の机の上には名刺が次々と増え、一々答礼する暇も…