市原郡に武士村といふあり。彼地に、山高くして舟行の標となるあり。山上に古神祠あり。土俗相伝、神誓ありて盗賊を護すと。賊遁れて此山に匿るヽ時は見へず。故に盗神の称ありと。思ふに、跖が徒を祭れるにてもあらじ。此地、山深く人居稀にして亡命逃竄の徒の巣居となりぬれば、かく汚名を蒙らしめけり。中村国香(江戸時代中期の儒者)。『房総志料』より ちょうど10年前の4月の寒い日、この泥棒神社こと建市神社へ出かけてみた。千葉県内房線の五井駅から小湊鉄道に乗り換え、上総三又駅で下車。駅周辺は見渡す限りの水田で、その水田の中の道を東へひたすら歩く。広い田んぼが広がっている中を2キロほど歩くと武士の集落に出る。さらに…