『深田康算全集』全四巻(岩波書店、1930 - 31) 唐木順三だったか久野収だったか、記憶が判然としないが、ともかく京都学派の空気を浴びて育った論客による、肩の凝らぬ回想文だったか対談記録だったかで、読んだ記憶がある。 高名な京都帝国大学文学部哲学科には三教室があって、A が田辺元教授、B が西田幾多郎教授の教室だった。文字どおり当代日本哲学界を代表する教授がたで、学徒はいずれかの名教授に師事したくて京大哲学科へ進学した。 哲学C は深田康算(やすかず)教授で、こちらは哲学というよりも、美学や芸術論に寄せた柔軟かつ自由な教室だったという。田辺・西田のいわゆる「大哲学」に飽き足りぬ想いを抱き、…