この齢になつて甲斐もなく仏語学校に通つてゐる。齢二十五で斯う云ふと失笑を買はれるだらうが、若さの可能性を知るのは年を取つてからだし、抑々臆病な自尊心で身動きの取れぬ青年など、老人と大して変はる所がない。 話が逸れた。今日とて仏語の勉強のため図書館を訪れた。エレベーターを待つ間、ふと掲示されてゐるパンフレットを見た。表紙に『イザボー』とある。イザボー、どこかで聴いた名だと思ひ暫く記憶を辿つてゐると、果たしてヴィリエ・ド・リラダンに、彼女を題材とした短篇があつた。 イザボー・ド・バヴィエールはシャルル六世王(1368-1422)の妃。シャルル七世王(1403-61)の母。彼女の美貌は史家のなべて認…