その夜、堀川大殿は妙な夢を見た。 『光失(う)する心地こそせめ照る月の雲かくれゆくほどを知らずは(照り輝く月のように美しい狭衣が出家遁世するのを誰も知らぬとは)あの者は帝位にふさわしい人物だというのにまことに惜しいことよ。過日の琴の音はあまりにも耳に心地よいものであった。余計な手出しとは思うたが、そなたらが哀れでな。琴の礼に教えてやろう』 威厳に満ちた貴人がそう告げるなり目が覚めた。大殿は、ここが神域であることと、夢の中の人物があまりにも神々しい正装をしていたことから、(きっと賀茂明神に違いない。いったいいかなるお告げをいただいたのか)と混乱してしまっている。まさか我が息子狭衣のことを暗示して…