細菌学者の佐伯教授は、パリで開かれた肝炎ウイルス国際会議での研究発表後、米国陸軍微生物研究所の博士を名乗る老紳士から、ある研究者の死の真相を打ち明けられる。その研究者とは、佐伯が若手だったころに苦楽をともにした、同じ細菌学者の黒田武彦だった。「黒田はフランスのピレネーで自から命を絶った」。老紳士が語る真相は、「米国で事故死した」と聞かされていた佐伯を驚愕させる。 フランスで夭折したはずの黒田が、なぜ米国で事故死したことになっていたのか。なぜ黒田は自ら命を絶ったのか――。佐伯はパリからピレネーの地に赴き、亡き友人の足跡をたどっていく。 本作は作家で精神科医の帚木蓬生が1979年に発表した医療ミス…