視慣れない爺さんが石神井公園駅のほうから通りかかってね、南田中という地名は今もあるかと、妙なこと訊きやがるから、この坂をくだりきって石神井川を渡った一帯だと、教えてやったさ。 あたりはすっかり変っちまったが、お稲荷さんだけはなんぞと、利いた風なこと云いやがるから、どれくらいぶりだいと訊ねてやったら、五十年前の思い出だそうだ。人間なんてもんは、顔を見せたかと思ったらアッという間に齢をとりやがって、風采もなり振りも変りやがる。いちいち憶えていられるかってんだ。 このクソ暑いなかを、肩から頭陀袋を提げて、つば広の陽除け帽を被ってサングラスなんぞかけやがって、草履の踵をペシャペシャ引きずった、くたびれ…