1905年(明38)大学館刊。序文でドイツの小説からの翻案であると明言している。言文一致体への移行が盛んに行われていた時期ながら、旧来の文語体表記で書かれている。「~たり」「~けり」「~なり」など格調は高いけれども、鹿島桜巷(おうこう)の語り口は明快で、数年後の作品では現代口語の文体に切り替わっているが、どちらにしても読みやすい。夜行列車の車内で起きた強盗殺人事件。被害者は静岡県内の銀行員で大金を東京に運ぶ役目だった。県警のベテラン刑事が担当するが捜査は難航し、警部の若い息子が助力を申し出る。被害者の娘が誘拐される事件も起きて、息をつかせない筋立てに読者は引きずられる。後半は謎解きよりも追跡劇…