1917年(大6)春江堂刊。前後2巻。 真情と義理との板挟みで人生を絶望するまでに追い込まれる女性の悲劇小説。相思相愛の仲の男女が親同士の仲違いゆえに結ばれず、男はドイツ留学へと旅立つ。その直後、女は実家の破産の危機に直面し、泣く泣く金銭ずくの結婚に応じてしまう。美貌でかつ才媛の女性は嫁ぎ先ではむしろ妬みの矛先とされるが、婚資によって救われた実家のためには針の筵でも我慢せざるを得ない。姑や小姑の身勝手なあしらいは壮絶に描かれている。実の親が死んだ後、親族が親身になれるのには限界があり、やはり人間は天涯孤独を覚悟せざるを得ないのかと思わせる。ジャンルとしての悲劇小説は、自然主義文学が絶望のどん底…