はじめに 能楽では、地謡や役者が舞台上に上がりますが、役者自身が語ることはなく、仮面のわずかな傾きや動作の少ない所作によって喜怒哀楽を表現します。舞台装置も常に同じで、派手な演出は用いられません。 わびさびと能楽は、どちらも日本の伝統文化に深く根ざしており、能楽が日本の美意識に与えた影響は非常に大きいと考えられます。わびさびは、簡素さや不完全さの中に美を見出し、自然や時間の経過による静かな感情の奥行きを重んじる美意識です。能楽は、そのわびさびの美学を舞台芸術として具現化したひとつの形と言えるでしょう。 わびさびの概念 わび(侘び): 不完全さや質素な美しさを称賛し、外的な豪華さではなく内面的な…