「私は病気によっていったん職をお返しした人間なのですから、 今日はまして年も老いてしまったし、 そうした重任に当たることなどはだめです」 と大臣は言って引き受けない。 「支那《しな》でも政界の混沌《こんとん》としている時代は 退いて隠者になっている人も治世の君がお決まりになれば、 白髪も恥じずお仕えに出て来るような人を ほんとうの聖人だと言ってほめています。 御病気で御辞退になった位を次の天子の御代に 改めて頂戴《ちょうだい》することはさしつかえがありませんよ」 と源氏も、 公人として私人として忠告した。 大臣も断わり切れずに太政大臣になった。 年は六十三であった。 事実は先朝に権力をふるった…