夏の花火大会 真夏の夕暮れ時、人混みが大の苦手な幸子の手を引いて吉彦は土手を歩く。 ドテラから見下ろせば、河川敷には前も後ろも右も左も先の方まで人で埋め尽くされていた。 河川敷で開かれる夏の花火大会。 予約席までの道のりは、夏の蒸し暑さと人のむさ苦しさが相まって、恐ろしさを感じるほどの熱気であった。 この日の為に、二人はお揃いで浴衣を新調した。 幸子は白地に濃い藍色の花柄模様の、吉彦は紺一色の浴衣を着ていた。 熱気に心も体も全て奪われそうになりながらも、夏の浴衣に心は踊って何故か苦しさを感じない。 二人は人混みの中を何も言わずに歩いた。 老若男女がぞろぞろと蠢くなかで、やっとの事で予約席まで辿…