宮沢賢治は、『春と修羅』を自費出版した3か月後の1924(大正13)年7月に、「薤露青(かいろせい)」という心象スケッチを残しています。薤とはニラのことで、ニラの葉の上の露は消えやすいことから人の死を悲しむ涙にたとえられ、古代中国では葬送のときの挽歌の意味に用いられたそうです。試しに自宅の狭い庭の片隅に自生していたニラの葉に水をかけてみたところ、大きな青い涙のような水滴が葉の上に現われました。 「薤露青」は妹トシへの最後の挽歌で、次のような言葉で始まります。 みをつくしの列をなつかしくうかべ薤露青の聖らかな空明のなかをたえずさびしく湧き鳴りながらよもすがら南十字へながれる水よ <中略>水よわた…