一章 長月の川風と、子らの朝 長月の風は、夏の名残りをほんのり含みながらも、どこか秋の匂いを運んでおりました。おちかはすっかり娘らしくなりましたが、まだまだ子供のあどけなさが残り、五郎蔵親分の倅・虎松とは大の仲良しで、まるでおちかの用心棒のように寄り添っておりました。寺子屋の休みの日や、稽古を終えた夕暮れどきになると、おちかは決まって舟宿『舟善』の渡し場へ向かいます。虎松はというと、朝からおちかの後をついて回り、舟陰に隠れては「おちかちゃん、危ねぇとこはねぇか」と目を光らせておりました。舟善の内所では、波江様が千代絵様の手伝いもあって仕事が早く片付き、ちゃちゃを抱いて渡し場へ出てくることが増え…