前稿で私は『歯車』の主人公の瞼の裏に幻視した「銀色の翼」つまり「イカロスの翼」のようなものが,賢治の幻視した「業の花びら」と同種のものであり,またこれら幻覚が宗教を軽んじたことによる「慢心の罰」によって現れるものであると推論した(石井,2024)。直接的な交流のない2人の作家が作品の中で「慢心」が原因の似たような幻覚を表現するのは不思議でもある。しかし,この類似性の謎を解き明かすヒントが賢治の花巻農学校時代の2人の教え子に出した手紙にある。本稿ではこの手紙を基に芥川と賢治がそれぞれの作品の中で同時期に同種の幻影を見た時代的背景を考えてみたい。 芥川は明治25年(1892)生まれで,「銀色の翼」…