節2:到着、そして違和感 三月二十日、午後二時過ぎ。 四台に分乗した車は、大学からおよそ三時間半、さらに舗装もまばらな山道を四十分ほど進み、ようやく目的地へと辿り着いた。ナビは途中から固まったままで、スマートフォンはすでに圏外を示している。頼りは古びた地図だけだったが、乾陽太はむしろ楽しげに前方を見据えていた。 森が裂けたようにぽっかりと開けた空地に、その館は忽然と姿を現した。霧のカーテンの向こうから唐突に現れたかのような異質さがあり、赤黒い煉瓦と黒い梁で構成された洋館は、どこか歪んで見えた。中央から突き出す時計塔は三時二十七分を指したまま静止し、その沈黙が全体に不気味な重みを与えていた。 柚…