序章 国道沿いのドライブインが廃墟となって、 もう十年は経つだろうか。 山の斜面にぽつんと残された看板には、 いまだにかすれた文字で 「営業中」と書かれている。 それはまるで、この場所に取り残された時間を物 語っているようで、 なんとも言えぬシュールさを帯びていた。 誰一人として、 ここに足を止める者などいない。 時折深夜に大型トラックが停まるだけだ。 ここは国道沿いの、 誰も寄りつかなくなった集落に残る、 ドライブインの廃墟。 外壁の塗装はほとんど剥がれ、 看板の文字は色が抜け、 駐車場のアスファルトには、深いひびが入り、 草が縁石を越えて広がっている。 辺りを見回すと、近くに小さな温泉地が…