葦垣《あしがき》のまぢかきほどに侍《はべ》らひながら、 今まで影踏むばかりのしるしも侍らぬは、 なこその関をや据《す》ゑさせ給ひつらんとなん。 知らねども武蔵野《むさしの》といへばかしこけれど、 あなかしこやかしこや。 点の多い書き方で、裏にはまた、 まことや、暮れにも参りこむと思ひ給へ立つは、 厭《いと》ふにはゆるにや侍らん。 いでや、いでや、怪しきはみなせ川にを。 と書かれ、端のほうに歌もあった。 草若みひたちの海のいかが崎《さき》いかで相見む田子の浦波 大川水の (みよし野の大川水のゆほびかに思ふものゆゑ浪《なみ》の立つらん) 青い色紙一重ねに漢字がちに書かれてあった。 肩がいかって、し…