座敷の御簾《みす》をいっぱいに張り出すようにして裾をおさえた中で、 五節《ごせち》という生意気な若い女房と令嬢は双六《すごろく》を打っていた。 「しょうさい、しょうさい」 と両手をすりすり賽《さい》を撒《ま》く時の呪文を早口に唱えているのに 悪感を覚えながらも大臣は従って来た人たちの人払いの声を手で制して、 なおも妻戸の細目に開いた隙《すき》から、 障子の向こうを大臣はのぞいていた。 五節も蓮葉《はすっぱ》らしく騒いでいた。 「御返報しますよ。御返報しますよ」 賽の筒を手でひねりながらすぐには撒こうとしない。 姫君の容貌は、ちょっと人好きのする愛嬌《あいきょう》のある顔で、 髪もきれいであるが…