大学生の若君は失恋の悲しみに胸が閉じられて、 何にも興味が持てないほど心がめいって、 書物も読む気のしないほどの気分が いくぶん慰められるかもしれぬと、 五節の夜は二条の院に行っていた。 風采《ふうさい》がよくて落ち着いた、 艶《えん》な姿の少年であったから、 若い女房などから憧憬《あこがれ》を持たれていた。 夫人のいるほうでは御簾《みす》の前へも あまりすわらせぬように源氏は扱うのである。 源氏は自身の経験によって危険がるのか、 そういうふうであったから、 女房たちすらも若君と親しくする者はいないのであるが、 今日は混雑の紛れに室内へもはいって行ったものらしい。 車で着いた舞い姫をおろして、…