大赦の御使、 丹左衛門尉基康《たんざえもんのじょうもとやす》と その供のものをのせた船は、 目指す鬼界ヶ島についたが、荒漠とした孤島のさまは、 都より訪れた人々に、おそろしく激しい印象を与えた。 船が島につくや、波にぬれた浜に一気に飛び下りた基康は、 大声をあげた。 「都から流された平判官康頼入道、丹波少将殿はおらるるか」 供の者もこれに和して、口々に尋ねたが、 しばしは波の音がこれに応えるばかりであった。 というのも、 康頼と少将の二人は例の熊野詣に行っていたからであったが、 ただ一人俊寛は小屋のほとりに寝そべったまま、 一人京の街をおもい、故郷の寺の山々に思いをはせていた。 人の声もまれで…