安倍・二階氏の意向大きく=IWC脱退、外交に冷や水

政府が国際捕鯨委員会(IWC)脱退を決定した。決断に至る過程では、古くから捕鯨が盛んだった地域が地元の安倍晋三首相と二階俊博自民党幹事長の意向が大きく働いたとみられる。一方、脱退は、オーストラリアなど反捕鯨国との国際協調に冷や水を浴びせる恐れがある。
和歌山県太地町の三軒一高町長は26日、自民党本部に二階氏を訪ね、脱退決定に謝意を伝えた。二階氏は「(捕鯨を)徹底的にやれ」と激励。この後、三軒氏は記者団に「幹事長が地方の声を官邸に届けてくれた。神様みたいだ」と語った。
太地町は「古式捕鯨発祥の地」だ。その町を選挙区に抱える二階氏は早くから商業捕鯨再開を主張。今年9月のIWC総会で日本の提案が否決されると、10月に開かれた捕鯨議員連盟の会合で外務省幹部を「何をぼやぼやしているんだ」と一喝するなど、脱退に向けて強硬姿勢を強めた。
一方、首相の地元である山口県下関市も「近代捕鯨発祥の地」として知られる。ある政府関係者は、今回の決定で大きな役割を果たしたキーマンについて「山口と和歌山の政権ツートップ」と語り、首相と二階氏だったことを示唆した。
政府は表向き、脱退の決め手は「9月のIWC総会」(菅義偉官房長官)としている。ただ、政府内では、漁師から「商業捕鯨の将来が見えない中では、老朽化した漁船を買い替えられない」との悲鳴が上がっていたことが、首相らの判断を後押ししたとの見方も出ている。
政府は25日に脱退を閣議決定したが公表せず、発表を26日にずらして、その間に関係国に説明、衝撃を緩和しようとした。菅氏は26日の記者会見で、農産物などの価格安定を目指す「一次産品共通基金」という国際機関を2013年に抜けた例を持ち出し、日本の国際機関脱退は珍しくないと強調してみせた。
しかし、IWC脱退は、日本が戦前に孤立化を深めるきっかけになった国際連盟脱退を想起させ、パリ協定など国際枠組みからの離脱を表明するトランプ米大統領の姿とも重なる。来年は大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議をはじめ重要な外交案件が立て込んでおり、影響を懸念する声も漏れる。
「今後、外交的に厳しくなる。そこまでしてクジラを食べる必要があるのか」。外務省関係者はこう不安を口にした。
(2018/12/27 08:01 時事通信社)